「人間文化研究情報資源共有化研究会」への期待

明日、3/12(金)は、デジタル人文学/人文情報学に関する重要なイベントが2つあります。 片方は人文学の研究データの基盤の話、もう片方は研究データをどのように展開するか、というテーマを 扱うようで、この二つが重なってしまうのはなかなか残念なことなのですが、特に年度末はよくある ことなので、それはそれとしてなんとか対応するしかありません。

しかしながら、ただ参加するだけなら両方視聴すればよいのですが、今回はそのうちの片方の 国際シンポジウム「古典のジャンルと名所-デジタル文学地図の活用」 でコメンテイターをすることになったので、 そちらをきちんと拝聴するつもりであり、そうすると、もう片方はあまり耳を 傾けることも議論に参加することもできないだろうと思います。しかしながら、人文学の将来にとっては 非常に重要なプロジェクトが開催するイベントなので、話を聞くことはできないにしても、 期待するところだけでもお伝えしておかねばということで、関係者の人がこちらを 読んでくださることを願いつつ、以下に少し書いておきたいと思います。

参加できない方のイベント、というのは、第16回人間文化研究情報資源共有化研究会のことです。 人間文化研究機構という、国内トップクラスの国立人文系研究機関を束ねる組織が進める、人文系の研究データを共有できるようする という事業であると個人的には理解しております。それぞれの所属機関が公的資金を投入して構築した 貴重かつ有用な研究データを大量に蓄積しており、さらに、それらを横断検索できるようにしているのが 統合検索システムnihuINTです(多分)。単なる検索だけでなく、地図年表上での 検索結果のプロットなど、現在の技術でそれほど手間をかけずにできそうなことは大体実現されていて、 お手本のようなサイトの一つです。今後も色々拡充されていくのだろうと思いますが、ぜひがんばって いただきたいところです。

そこで、これはあくまでも外野の勝手な意見というか気持ちなので実現可能性などを考慮している わけではないのですが、拡充の方向性について、個人的には色々期待するところがあります。 わがままというかお節介というか、実際に事業を推進しておられる方々には大変恐縮なの ですが、そのうちの少しだけでも、あくまでも個人的な立場として挙げておきますと、

個人的な期待その1

まず、現在、研究データと言えば、オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR) がJPCOARスキーマというものを作って研究データをリポジトリに載せることを 薦める活動を推進しているようです。もちろん、JPCOARにも様々な経験者・知恵者が おられると思うのですが、今のところ、だからJPCOARスキーマに準拠して 研究データをデポジットしよう、という話は人文学研究者の間からはまだあんまり 聞こえてきません。一方で、こういうものは経験がものを言う場面もあり、 事例の積み重ねが重要になる局面もあるでしょう。人間文化研究機構の方での 研究データの横断検索やそれを実現してきた実績が、すでにJPCOARの活動にも 反映されているならよいと思うのですが、もしそのあたりがまだそれほどでも ないのであれば、人文学研究者を研究データのオープンアクセスリポジトリ に近づけるためのノウハウを色々お持ちなのではないかと思いますので (しかしながら、よくある話として、ご自身の特長についてあまり言語化・自覚が できておられないかもしれないので)、対話の場などを適宜設けて、 うまく連携していただければと思っているところです。

個人的な期待その2

それから、色々便利なものを作ってきてくださっているところですが、便利なものを 提供するサービサー側にとどまってしまうと、色々な面で大変(書くと長くなるので 省略します)ですので、各機関の研究者はもちろんですが、それだけでなく、 利用する研究者側でも参加できるような仕組みが提供されるとよいのでは ないかと思っております。そうすると、利用者側の当事者意識を高めることにも つながって、結果として、大学共同利用機関としての存在意義を深めることに なるでしょうから、機関としても、人文学研究者全体としてもよい方向が 一つできるのではないかと思うのです。なお、そんなことわかってるし当然 計画している、かもしれず恐縮ですが、外野からはそういう議論や進捗の内実も わかりませんので、その点はご容赦ください。

具体的には、まあ色々ありますが、ごくわかりやすい例で言えば、CiNiiの名寄せ 報告システムみたいな簡単なものでもよいのではないかと思います。データを 典拠データベースと紐付ける、くらいのことでも、つかいながら気がついた情報を ちょこちょこ簡単に報告できるようになっていて、それがしばらく後に反映される ようであれば、データベースや事業への愛着を持ってくれる人も増えていくのでは ないかという気がします。

また、システムだけでなく、データの作り方も色々あり得るのではないかと思います。 今はどうなっているかわかりませんが、研究者個人が研究データをデポジットできる マイ・データベースという仕組みを計画しておられた時期もあり、現在はむしろ JPCOARの方でデポジットの部分は担ってもらえるにせよ、そういうところで 蓄積した知見を踏まえつつ、ユーザ志向のメタデータ集約システムのようなものを 構築していくという方向もあり得るでしょう。それも、かつてなら認証システムを 自前で構築して…ということになって大変でしたが、最近は連携認証を使ったり、 WebブラウザのLocal Storageを使ったり、手間をそれほどかけずに済ませる方法も 出てきていますので、何か工夫が可能なのではないかとも思います。 EUが支援する人文系研究データリポジトリCLARIN-ERICではシボレス認証+独自認証という 運用をしているようで、あるいは 国立台湾大学で構築運用しているDocuSkyなども、そういう方向性を考える上では 役立ちそうな気がします。

というようなことで、外野が勝手に思っていることを、少しだけですが書かせていただきました。 リソースもパワーも経験も、本当にすごいものがあって、それはこれからの オープンサイエンス時代の人文学に大きな貢献が可能であると思っておりますので、 まずはそれを自覚していただきたい、というのが気持ちのベースにありまして、 とにかく、関係者のみなさま、これからもがんばってください。