それでも高度なデジタルアーカイブを提供したい時は:「一次公開」「二次公開」とIIIF

以下の、前回記事の続きです。

digitalnagasaki.hatenablog.com

こちらの記事では、新しいことや難しいことをすると大変だ、という話ばかり書きましたので、がっかりした人もおられるかもしれません。 たしかに、良コンテンツを持っているところでなければ高度なデジタルアーカイブの提供はできませんし、単体では良コンテンツとは言えないものでもある程度の規模で集約することによって価値を高めることができるのはよくあることです…というのは、IIIF (International Image Interoperability Framework) 登場以前の話でした。今はそう考える必要がありません。

IIIFの枠組みでは、このルールに従って公開された画像は、この枠組みに準拠したより良いツールが登場したら、そのツールに切り替えることができます。それは、デジタルアーカイブ提供者だけでなく、利用者の側でIIIFに準拠した好きなツールを使用することができます。ですので、提供者側ではできなくても、利用者側でより高度な利用方法を試すことができます。たとえば、IIIF Curation Platform はその典型的な例です。この場合、IIIF manifestのURIをこのプラットフォームに読み込ませれば、このサイト上で画像を部分的に切り出して集めたり、メタデータを新たに追加したりできます。さらに、このプラットフォームを自分のサイトにインストールすれば、自分のサイト上でそのように工夫したデジタルアーカイブを再利用的に公開することもできます。もちろん、公開元デジタルアーカイブをいじるわけではありませんので、あくまでも、これを利用している人の責任で行われることになります。

「できること」を端的に示すとこういう話になってしまいますので、自分のところのデジタルアーカイブ構築の功績ではなくなってしまうのか…と思われる人もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。重要なのは、「一次公開」と「二次公開」を分離できることなのです。つまり、前回記事で書いたような手堅く安定したデジタルアーカイブの構築は「一次公開」としてきちんとやっておきつつ、余力があれば「二次公開」として、自分のところで公開したIIIF対応デジタルアーカイブを対象としたサービスを展開すればよいのです。そうすると、「二次公開」の部分は持続可能性をあまり強く保証できないとしても、むしろ期間限定サービスのような位置づけで提供することもできます。いずれにしてもデジタルアーカイブは5~8年くらいで入れ替えをしなければなりませんので、次の入れ替えまでは提供できるサービスという位置づけで提供することで、ユーザへ与える混乱もかなり減らせるでしょう。デジタルアーカイブは、安定的にコンテンツを提供することが望ましいので、「一次公開」と「二次公開」を分けて考えて構築・運用することが、ユーザへの利便性を高めつつデジタルアーカイブ構築側のサービス精神も発揮できる一つの出口になるのではないかと思います。

そして、「二次公開」部分でデジタルアーカイブに独自の機能を追加しようとする場合にも、そうしたツールを組み合わせて提供することもできます。さらに、独自機能提供のために独自にツールやソフトウェアを開発するにしても、技術仕様がオープンになっており、かつ、Webエンジニアに理解しやすいフォーマットになっていますので、開発コストをかなり下げることができます。「自分で内製するぞ!」という場合にも、既存の色々なWeb向けツールを利用できますし、ドキュメントも比較的豊富ですので、かなり取り組みやすいでしょう。

あるいはまた、こうなってくると、デジタルアーカイブを構築・公開した後に外部により深いメタデータ構築を手伝ってもらうという方向性も出てきます。たとえば、京都大学貴重資料デジタルアーカイブがIIIF対応で公開した仏典資料を、仏典研究者のグループが自サイトで公開するためにメタデータを増やしてから再公開し、さらにそのメタデータを京都大学図書館側に戻して、京大図書館がそのメタデータを取り込む、といったことも行われたことがあります。以下のURLにてそのときのことが簡単に紹介されています。

current.ndl.go.jp

このように見て来ると、IIIF、というより、デジタルアーカイブにおいて画像公開の仕方を技術的に共通化することは、非常に大きな意義があることがわかります。実はIIIF以前にも色々な技術が開発され提供されてきましたが、「みんなが採用する」には至りませんでした。IIIFは、最初から世界の有力な巨大図書館が採用することを前提として国際的な協力関係の下で始まったため、現在のように広く採用されることになりました。独自のものを追求したい方々におかれては、よくわからない海外の人達が決めたものに準拠しろ、ルールを守れ、と言われると面白くないと思うこともあるかもしれませんが、これに準拠することで、上記の「二次公開」のような形で、独自のものを作りたければより効率的に構築・開発ができるようになりますし、さらに、自分のところのコンテンツが世界中のコンテンツと協調して新たな価値を生み出せる可能性が出てくる、ということになりますので、そのあたりを踏まえて、IIIFへの準拠をご検討いただけますと、一利用者としてもありがたいところです。