書誌情報作成/図書館情報学/デジタル・ヒューマニティーズ/デジタルアーカイブに関心がある方々におすすめの講演会

2月の18日(土)と21日(火)、連続講演会「TEI (Text Encoding Initiative) × Library が拓くデジタル人文学と図書館の未来」が開催されます。

ケンブリッジ大学の、デジタル図書館の責任者であるHuw Jones氏と中東専門部門長のYasmin Faghihi氏をお招きしての講演会です。これがなぜ、「書誌情報作成/図書館情報学/デジタル・ヒューマニティーズに関心がある方々におすすめ」なのか、少しご説明をさせていただきます。

ケンブリッジ大学デジタル図書館では、古典籍・貴重書用のデジタル図書館システムにおいて、詳細な書誌情報を記述・表示できる仕組みを提供しています。この記述ルールとして、人文学のための研究データ構築のガイドラインである TEI (Text Encoding Initiative) ガイドラインを採用しているということが、まずデジタル・ヒューマニティーズ分野において注目されることなのですが、同時に、こちらのブログ「ケンブリッジ大学デジタル図書館の日本資料の書誌情報を視覚化してみる - digitalnagasakiのブログ」にてご紹介しているように、詳細な書誌情報を対象とした統計分析も可能としているという点が、書誌情報を扱う方々におかれても、関心をお持ちいただけるところなのではないかと思います。

日本古典籍に関してはこの書誌情報はそれほど整理されていないのですが、それを高度に推し進め、さらにそれを各地の専門司書のネットワークによって構築しているのが、Yasmin Faghihi氏率いるイスラーム写本横断検索サイトFIHRISTです。

FIHRIST
FIHRIST

これについては、須永恵美子氏による紹介記事がとてもわかりやすいです。FIHRISTでは、TEIガイドラインに準拠した詳細かつ構造化された書誌情報を各地の専門司書が作成し、それを集約して高度な書誌情報検索を可能としています。たとえば、書誌情報に登場する、著者だけでなく、筆耕者、前の所蔵者、描かれている人、翻訳者、パトロン、寄付者、注釈者、画家、編纂者、編集者、蔵書印、人物の様々な「役割」まで記述し、それが以下のようにして絞り込み検索の対象として提示されます。これだけでも、書物の歴史に関する様々な分析が可能になりそうです。

登場人物の役割
登場人物の役割
この役割の記述手法自体はTEIガイドラインに用意されていますが、実際にそれを記述するというのはまた別な話であり、さらに、記述内容をある程度統制することにもまた別の努力が必要になります。そういったことも含めてきちんと実現されているというところにこのFIHRISTの素晴らしさがあります。

同様に、作成時期や装飾の有無、素材、所蔵機関、所属コレクション等々の情報が提供されており、物理的な形態に関する情報であれば以下のように記述されてまとめられています。

物理的な形態に関する情報
物理的な形態に関する情報

サブジェクトに関するメタデータも以下のように付与されています。

サブジェクトの分類
サブジェクトの分類

日本の古典籍のメタデータもこれくらい情報をとれるようになると、また色々な分析が出来るようになり、書物を愛する人達にとって興味深い情報が得られ、何か新しい事実や解釈の発見もできるかもしれません。そういうことを考えてみるための手がかりとして、この会にて、このFIHRISTを率いるYasmin Faghihi氏のご講演は色々なヒントを提供してくださるのではないかと思っております。

また、ケンブリッジ大学デジタル図書館は、書誌情報だけでなく、画像をIIIF対応で公開しているのはもちろんですが、さらに、テキストによっては本文もTEIガイドラインに準拠した形で作成・公開しています。科学史の研究者の方々ならおそらくよくご存じかと思いますが、ここの図書館のNewton Papersというデジタルコレクションでは、ニュートンの手書き原稿のTEIガイドラインに準拠して構造化された翻刻テキストが公開されています。たとえば、Papers connected with the Principiaでは、以下のような感じで頁画像を拡大表示しつつ、TEIガイドラインに準拠して記述された翻刻テキストをCSSで整形・レイアウトして表示しています。数式の記述には数式をXMLで記述するためのMathMLが用いられています。

Papers connected with the Principia
Papers connected with the Principia

そして、このTEI/XMLテキスト自体も、こちらのURLからダウンロードして再利用できるようになっています。

このような仕組みは、デジタル図書館システムとしても、デジタルアーカイブシステムとしても、古典籍の事情と人文学者のニーズに深く寄り添った興味深いシステムであり、そして、このようなものを作成する仕組みやワークフローという観点や、このデータの使い道といった観点ではデジタル・ヒューマニティーズにも大変興味深いものではないかと思っております。

このようなものについて、その責任者から直接、しかも同時通訳がついて日本語で話を聞ける機会、というのが、2/18と2/21の講演会です。これはなかなか貴重な機会ではないかと思います。対面とオンラインのハイブリッド形式ですので、遠隔地でもご参加いただけます。よかったらぜひご参加してみてください。