簡単に簡素なデジタルアーカイブを構築するにあたってIIIF対応も簡単に

今回は、ここ2回続いた生成AIの話はちょっと横に置いておきまして、「簡単に簡素なデジタルアーカイブを構築するにあたってIIIF対応も簡単に」する方法です。それができるサンプルプログラムをしばらく前に作って紹介しましたので、それをご紹介する記事です。そして、この記事は、初心者向けの記事ではなく、そういうことができるシステムをすでに作っていたり、これから作ろうと思っている方々に、「もう一手間かけるとIIIF対応にできる」ことを知っていただくことを目的としたものです。ですので、そういう方々は、ここで紹介するプログラムを見て、ぜひ色々と可能性をご検討ください。

デジタルアーカイブ構築用のシステムは、このところどんどん高度化していて、高いものでは1億を超えるものもあるようです。ある程度費用をかけると、データの管理機能も備えた、大変利便性の高いシステムを利用できるようですね。

一方で、画像はJPEG、目録情報(メタデータ)はエクセルやGoogle Spreadsheetで用意したけど、これをなるべくお金も手間もかけずに公開したい。。。というニーズも依然として存在しているようです。そのようなデータを簡素にデジタルアーカイブとして公開しようとする取組みとして、ネットでぱっと検索してみると、たとえば以下のようなものが見つかります。

  • 移行しやすく使いやすいデジタルアーカイブの構築:教育図書館貴重資料デジタルコレクションの経験から https://doi.org/10.2964/jsik_2019_016 情報知識学会誌 2019 年 28 巻 5 号 p. 367-370

  • DAKit: 低コストなデータ共有のための 静的デジタルアーカイブジェネレータの提案 https://doi.org/10.2964/jsik_2022_035 情報知識学会誌 2022 年 32 巻 4 号 (こちらのジェネレータでは、IIIF v2/Miradorに対応していたようです。)

商用サービスでも探してみると色々ありそうです。 (このあたりのことをより抽象的に捉えようとする論考も色々あるのですが、今回はとりあえず、「どうやって作ればいいのか」に限定した話です。)

こういった簡素なデジタルアーカイブも、この簡素なレベルでIIIF対応画像として公開することが可能です。。。と言っても、画像の切り出しや回転のようなことはできなくなってしまうので、できれば、それもできるようなサーバを用意していただきたいと切に思うところなのですが、どうしてもそういうサーバを用意できないという場合でも、それ以外の様々なIIIFの「つなぐ」機能の恩恵を受けられる方法を、ここではご紹介します。

IIIF対応で画像や目録情報(メタデータ)を公開するための一般的な方法は、『IIIFで拓くデジタルアーカイブ』(オープンアクセス本)に詳細に書いてありますので、そちらをご覧ください。

この本で紹介する方法では、基本的に、サーバコンピュータ上でIIIF対応画像サーバソフトを実行して、画像切り出しなどの要請がきたらそれにあわせて画像をいつでも送り出せるようにしておく必要があります。この方法は、サーバ環境が充実していれば特に難しいことではないのですが、しかし、そのようなサーバソフトを自由に立ち上げられないが、しかし、HTMLや画像ファイルなどの静的なファイルだけは置くことができる、という環境でデジタルアーカイブを公開しなければならない状況もあろうかと思います。今回ご紹介するのは、そのような状況で、しかし、IIIFに対応することで少しでも利便性を高めたい、という人のための方法です。つまり、「静的なHTMLや画像ファイルなどを自由にサーバに載せて公開できる環境」は最低限のものとして必要になります。

そのような環境があり、かつ、公開できる画像とJPGで、そしてそれと紐付けられた目録情報(メタデータ)がある、という場合に、この記事で紹介する方法は有効になります。

それから、プログラミング言語Pythonを動作させられる環境が必要です。Pythonを動かせる環境というのはよくわからない…という人向けの話ではないのですが、最近は、そういうことはChatGPTに聞けばなんとかなるかもしれません。

これを実現するためのプログラムは、以下のURLに置いてあります。使い方もそこに書いてあります。そんなに親切な書き方ではないですが、Pythonを使ったことがある人はすぐにわかると思います。

https://github.com/knagasaki/simple_iiif

ここで紹介している方法は、画像とメタデータを用いてIIIF Manifestファイルを自動的に作成して、さらに各資料のランディングページにビューワへのリンクを表示させて、利用者は好きなIIIFビューワを選んでその画像を閲覧できる、というものです。これによって、各コマ送りをしたり一覧表示をしたり…といった色々な表示方法に関して、世界で開発されている最先端のIIIFビューワを利用できますので、システム開発の手間に比した利用者への利便性の高さは圧倒的です。もちろん、IIIF Curation Viewerで表示させれば、そこから様々なアノテーションが可能になり、動的なWebの世界も利用者が自由に堪能できます。

そして、IIIF Presentation APIの version2とversion3の両方を出力することで互換性に配慮した上で、各IIIF対応ビューワに読み込ませるものはversion3としております。

上記のURLにて公開しているプログラムをみていただければ、拍子抜けするほど簡単にIIIF対応できることをご理解いただけるかと思います。これを持っていって、ご自身のサービスに組込んでいただいても結構ですし、自分でもっときれいなものを書く、ということならそれでもかまいません。ぜひご利用ください。

見本は以下のような感じで、佐藤秀峰先生の『ブラックジャックによろしく』を使わせていただいております。

www.dhii.jp

このまだと見た目などはなんとも微妙ですが、CSSを工夫すれば結構みられるものになると思います。静的なHTMLを出力しているだけなので、できあがったHTMLファイル群をあとから検索置換で修正したり、プログラム自体にちょこっと手をいれたりしていただくのもアリだと思います。

それから、プログラミングはしないけどなんとか頑張ってここまでお付合いしてくださった皆様におかれましては、自分の周囲で、あるいは自分が依頼しようと思っている人がIIIF対応に難色を示している場合は、このブログ記事と上記のプログラムをご紹介してください。

IIIFを通じて、世界のデジタルアーカイブがより有機的に連携し、より豊かな知識社会の基盤を形成していくことを願っております。