JADH2024の豪華な基調講演をご紹介(まだ参加申込みは間に合います!)

日本デジタル・ヒューマニティーズ学会 (JADH) の年次国際学術大会、JADH2024が、本年は9/18-20に東京大学本郷キャンパスで開催されます。JADHは、国際デジタル・ヒューマニティーズ学会連合 (ADHO) の構成組織として、国際的なデジタル・ヒューマニティーズの潮流と日本の研究動向の交流の場として2012年の設立以来、毎年国際会議を開催するという形で活動を続けてきています。基調講演には国内外の有力なデジタル・ヒューマニティーズ研究者に講演をしていただくことになっていますが、今回は、ポーランド科学アカデミーのポーランド語研究所で所長をしつつクラクフ教育大学の教員でもあるMaciej Eder先生と、オランダ・マーストリヒト大学の教員であり、この9月からは欧州連合の人文学向けデジタルインフラプロジェクトDARIAHのトップをつとめておられるSusan Schreibman先生が基調講演を引き受けてくださいました。

Maciej Eder先生は、コンピュータ文学研究の第一人者であり、StyloというRベースのオープンソースソフトウェアを開発・公開しておられます。このソフトは、コンピュータで文体を分析して類似度を測ったり系統樹を作成したりしてくれる便利なソフトウェアで、この分野ではよく用いられる著者推定の手法である John BurrowsのDeltaも実装されて簡単に使えるようになっている大変便利なソフトウェアです。このMaciej Eder先生のお話をじっくり聞ける貴重な機会が、今回のJADH2024では提供されます。

一方、Susan Schreibman先生はアイルランド文学の研究者であり、かつデジタル・ヒューマニティーズの研究者でもいらっしゃいますが、デジタル・ヒューマニティーズ分野では知らぬ人のいない大物で、デジタル・ヒューマニティーズという分野名が使われることになった直接の理由である『A Companion to Digital Humanities』という2004年に出た分厚い共著本の3人の編纂者のうちの一人です。というのは、この本で Digital Humanitiesという言葉が用いられる以前は、この分野は Humanities ComputingやComputers and the Humanities等と呼ばれていたのですが、この本でDigital Humanitiesという言葉が使われ、さらに、学会連合やカンファレンスの名称、政府の助成機関等で用いるようになったため、デジタル・ヒューマニティーズという言葉が広く人口に膾炙することになりました。なお、この本に関しては、2015年に新版が刊行されたため、2004年版はオープンアクセスとして公開されています。

このような多大な影響力を持つ本の編纂者であったというだけでも相当なことですが、その後もSusan Schreibman先生は各地で活躍をしてこられました。日本で比較的よく知られているものとしては、TEIガイドラインに準拠して構築した校訂テキストをWebブラウザ上で見やすく表示するためのソフトウェア、Versioning Machine関連論文)を米国・メリーランド大学時代に開発したことでしょうか。その後、アイルランドの大学で、アイルランドでは初めてのパブリック・ヒューマニティーズであるイースター蜂起に関する手紙を文字起こしするプロジェクト Letters of 1916 に取組まれ、さらにそれをアイルランド内戦の時期まで広げたLetters 1916-1923)を現在も率いておられます。

また、近年、オランダに移られてからは、3Dを学術的に扱えるようにするための研究、3D Scholarly Editionに取り組んでおられ、PURE3Dという国際的なプロジェクト(関連論文)を率いておられます。このプロジェクトは、内容やコンセプトが素晴らしいのはもちろんですが、それだけでなく、学術編集版として3D環境を編集・操作するためのコンピュータ環境を、オランダの学術インフラ上で、オランダの学術インフラプロジェクトDANSの協力を得ながら構築しているという点でも素晴らしいものがあります。人文学のプロジェクトに対してここまで深く政府の学術インフラプロジェクトが関わってくれるという体制には、我々としても学ぶべきことが色々あるように思われます。なお、この3D Scholarly Editionの話を聞きたい人は、9/17(火)に慶応大学三田キャンパスで講演とワークショップがありますので、ぜひそちらにご参加ください。

こういった先進的なプロジェクトを着々と立ち上げ推進される一方で、基本図書の編纂にも注力しておられ、上述の2冊に加えて、デジタル文学研究の教科書、『A Companion to Digital Literary Studies』も編纂されました。そして、現在も、新たに重要な基本図書の編纂をしておられるのだそうです。

このような流れで、この9月からは、欧州連合の人文学向けデジタルインフラプロジェクトDARIAHのDirectorに就任されました。様々な国際的なプロジェクトを率いる中での知見を踏まえ、JADH2024では、人文学におけるデジタルインフラのあり方についての講演をしてくださるようです。日本ではそのあたりはなかなかうまくいっていないところですが、欧州でも必ずしもうまくいっているわけではありません。とはいえ、難しさのポイントはまったく異なっているはずです。というのは、欧州ではデジタル学術研究基盤を構築するプロジェクトが欧州連合全体として推進されており、人文学もそのなかにきちんと位置づけられ、内容に応じた複数のプロジェクトが立ち上げられているからです。そのあたりのことを聞いてみることで、日本の今後がどういう風に展開していくのか、検討するための材料を色々といただけるのではないかと期待しております。

JADH2024は、まだ参加申込みできますので、有料になってしまうのが恐縮ですが、基調講演以外にも興味深い一般発表がたくさんありますので、ご興味がおありの方は、今からでもぜひお申し込みください。参加申込みについては以下の頁をご覧ください。

JADH2024 - Registration