この数年、お手伝いをしていたお仕事の一つに、『十番虫合絵巻』(ホノルル美術館所蔵)のデジタル化、という仕事がありました。 このコンテンツについてはまったくの素人で、正確な説明はこちらのページをご覧いただきたいのですが、簡単に述べますと、
- 時は江戸時代、天明2年(1782)8月。隅田川のほとりのお寺、木母寺(もくぼじ)。
- 元々、当時は、和歌を詠みあって対戦する「歌合」というゲームが流行っていた。
- 一方で、秋の夕方、鈴虫・松虫などの声を愛でるために御座(ござ)や酒を携えて名所を訪れる「虫聴」も流行っていた。
- 和歌だけで対戦するのでは飽き足らなくなり、生きた松虫・鈴虫を組込んだジオラマ(州浜、と呼ばれるそうです)も作って展示して、それをテーマにした和歌を詠むことにした/詠もうとする和歌にあわせたジオラマを作って展示することにした
- 対戦で詠む和歌の元ネタは主に平安時代の作品(=当時から見ても古いもの。王朝の古典。)
という楽しいことが起きていたそうです。
そして、そのジオラマと、詠まれた和歌、さらには、その評価(判詞)と勝敗までが、巻物に書き込まれたもの、それが『十番虫合絵巻』なのだそうです。
しかし、この絵巻を見ても、絵がきれいなのはいいけど、文字はよくわからないし、文字が読めても内容は古文でわかりにくいし、そもそもそういうことだとどこがなんなのかもよくわからない…
…という、残念な状況がありました。
これを一気に解決してくれるのが、今回ご紹介する虫合絵巻ビューワです。
このビューワでは、上の図のように、現代語訳に加えて英訳まで、対応する箇所をハイライト表示してくれます。これで、「何が書いてあるのか」を現代日本語で読んで知ることができるのです。また、和歌に対応するジオラマも、和歌の横の画像アイコンをクリックすると表示してくれるようになっています。
しかし、これだけだと、文章を理解することはできても、歌合という対戦の構造はなんだかちょっとわかりにくいです。それをわかりやすくしてくれるのが、 右側の「和歌」タブです。
ここでずらっとリストされている「一番左歌」「一番右歌」…というのが、本文中の和歌なのですが、このうちのいずれかをクリックすると、その和歌についての対戦情報がずらっと出てきます。
ここでの「左歌」は、詠まれた和歌で、「虫判」はジオラマに対する評価、「歌判」は和歌に対する評価、そして、「歌判勝敗」は、その歌が勝ちであることを書いています。 これは古文だからよくわからない…という人は、それぞれのテキストにカーソルをあわせてみましょう。そうすると以下のように…
現代語訳の対応箇所にスクロールしてくれて、ハイライトもされます! 英訳も同様に表示されますので、英語圏の人にも同じようにおすすめすることができますね。
そして、「左歌」の隣にある画像アイコンをクリックすると、その歌の対応するジオラマの絵も表示されます。
そして、この画像はIIIF対応で公開されていますので、たとえば以下のような感じで、「虫」がどこにいるのか、拡大して探してみることもできます。
では次に、この会に参加したり歌を詠んだりした人たちはどういう人たちだったんだろう…?と思った時には、「人物」タブをクリックしてみましょう。
今度は、人物のリストが表示されます。各人物の名前をクリックしてみると、その項目が開いて、その人物の詳細情報が表示されます。たとえば、以下のような感じです。
そして、人物情報の下の方に、「参照している箇所」という項目があり、そこにカーソルをあわせると以下のように、その人物が登場する場所にスクロールされます。
と、まあ、このような形で、読みやすく、かつ、虫合という対戦を色々な角度から楽しめるいビューワが公開されたのでした。
このプロジェクトには多くの人が関わり、校訂本文・現代語訳・英訳を作成され、また、テキストはTEIに準拠した歌合向けのマークアップとIIIF画像向けのマークアップが行われ、さらにそのTEI準拠テキストとIIIF画像を連携させつつ同時にうまく表示させるビューワの開発も行われました。詳細はこちらをご覧いただければと思います。
そのようなことで、ぜひこの虫合絵巻ビューワをお試しして、虫合の世界を堪能してみてください。