Web動画をアンロックする:IIIF動画アノテーションのご紹介

追記:動画に色々描き込んだりするのはYou○ubeやニコニ○動画でもできるんじゃないの…?と思われる人も多いと思いますが、 大きな違いが2点ありますので、それを挙げておきます。

  1. まず、それらは今のところ基本的には「時間」に対して文字のアノテーションをするだけですが、IIIF動画アノテーションの仕組みでは、「時間」と「動画上の任意の位置」を指定して、さらに文字だけでなくあらゆるコンテンツのアノテーションができるということになっています。(ただし今回できるようになったのは文字と静止画像アノテーションです)。

  2. それから、もう一つの大きな違いは、アノテーションの規格がオープンなものであるということです。これには色々なメリットがありますが、たとえば、特定の企業にデータ形式を左右されて急に使えなくなったりすることがなく、さらに、誰でもこれに対応するアプリケーションを開発できるため、たとえば今回のようにどこかが開発してくれればそれに準拠したデータは皆それを使ってよりよい環境を手に入れることができる、といったようなことがあります。


IIIFと言えば、デジタルアーカイブ界隈の方々はもう大体ご存じのことかと思います。IIIFを創った人たちが目指したWeb画像をアンロックするというスローガンは見事にキマって、世界中の極めて多くの文化機関がIIIF対応で画像公開を行うようになり、Webで画像を自由に利活用できる環境が飛躍的に充実したように思われます。そして、IIIFに対応しない積極的な理由を持っていないところでは大体IIIFで公開するという流れになったように思われます。

さて、Web画像はそういう風になりましたが、IIIFが目指すところは、その名前には「Image」と入ってはいるものの、ベースとなる Open Annotation Data Model ⇒ Web Annotation Data Modelでは、そもそもコンテンツの種類は問いません。Web上のコンテンツならなんでも対象にして、アノテーションで接続できるようにすることを目指していたはずです。

というわけで、その部分をよりきちんとできるようにしよう、ということで策定されたのが、今年(2020年)の6月に正式公開されたIIIF Presentation API 3.0ですね。 これまでとデータの構造を変えてしまったので、IIIF対応アプリケーションはどこもちょっと苦労していると思いますが、多言語切り替え機能 や Attributionに加えてProviderという項目を導入したことなど、ユーザ/公開機関レベルではより利便性が高まっていますので、 いずれは対応したいところです。・・・が、今のところ、IIIF Curation Platformをはじめとして、IIIF対応コンテンツを対象とした 外部利活用ツールがまだあまりIIIF Presentation API 3.0に対応しておらず、今、いそいでIIIF Presentation API 3.0に対応した公開をする 必要はなさそうな気がします。

それはともかく、IIIF Presentation API 3.0の大きな変更点の一つは、これまでは静止画像を載せるだけであったCanvasという概念に時間の考え方を導入したことです。これにより、 動画や音声コンテンツに対して、任意の時間帯に様々な種類のアノテーションを付与する、といったことが原理的にはできるようになりました。

すばらしい!

と言いたいところですが、神崎正英さんの Image Annotator動画上に文字のアノテーションを表示できるようにして くださっているものの、広く用いられているIIIF対応ビューワでは未対応であり、さらに言えば、「いろんなものを、動画を含むいろんなものに載せられる」という今回の仕様改定の意義を発揮するには、 全体としてまだまだこれからといった段階です。

そこで、今回は、動画に画像を載せるようなこともできてもいいのではないか、それも、よく使われるメジャーなビューワで できるとよいのではないか、ということで開発されたのが、以下のページで紹介されている、Mirador 改良版です。

https://dh.l.u-tokyo.ac.jp/activity/iiif/video-annotation

なお、 一応、このMiradorについても改めて説明しておきますと、 スタンフォード大学図書館の開発チームを中心として、世界中の開発者が協力してオープンソースソフトウェアとして開発されているものです。 学術利用を意識して作成されているもので、画像の比較やアノテーションなど、多彩な機能を持っており、この11月にバージョン3に アップデートされたことにより、IIIF Presentation API 3.0に対応して、言語切り替え機能を実装したり、動画音声の再生ができるようになる など、かなりの進化を遂げました。とはいえ、動画アノテーションについては特に開発の予定がないとのことでしたので、Miradorの 便利な機能を前提としつつ動画アノテーションをできるとよいだろうということで、Miradorの開発に踏み切ったのでした。 実際に開発してくださったのはフェリックス・スタイルさんですが、集中していた時期は毎晩明け方までお付き合いいただいて、 大変ありがたいことでした。

さて、上記のURLで紹介されている例のうち一つは、NHKクリエイティブライブラリーのネコ動画2本を連続して再生し、さらにそれに対する任意の位置・時間のアノテーションを付与して、 ビューワで表示されたアノテーションの一覧をクリックすると動画上の対応する位置・時間に対してジャンプしたり位置を表示したり画像を表示したりする、という ものです。

もう一つの事例は、筆者が2017年に講演した動画が京大オープンコースウェアで公開されていたのですが、部分的には明らかに内容が古い上に、動画の解像度の 問題で講演中に紹介しているWeb画面がうまく見えないことが多い、ということがありましたので、それを、動画アノテーションによって 補足して2020年でもある程度は使えるものにしよう、というものです。こちらについて少し例を見てみると、 たとえば、

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動画アノテーションの例1

こちらの例では、スライド中の「受容」という漢字が間違っていたのでアノテーションで画像を貼り付けて修正しています。これは、動画を作成して 公開している方々はよくご存じかと思いますが、こういう間違いを修正するのは大変大きな手間と時間がかかります。特に、一般に公開している ものだったりすると、差し替え用動画を作成した後、差し替えるための手続きにも結構時間がかかることもあるかもしれません。しかしながら、 動画上への画像アノテーションが可能になると、割と簡単に修正できてしまいます。ここでは文字だけでしたが、文字以外にも色々な情報を 上書きすることができます。もちろん、外部サイトで閲覧できるようになっている(CORSヘッダが外部読み込みを許可している)動画が対象 ということになりますが、このあたりも、IIIF動画アノテーションの意義に対する認識が広まっていけば、そういうものも 増えていくのではないかと期待しております。

それからもう一つ、上記の動画からの例をみてみましょう。

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動画アノテーションの例2

こちらも、動画上に絵を貼り込んでおりますが、こちらの場合、吹き出しの絵を貼り込むことで情報を補足すると同時に、 アノテーション側ではリンクを提示することで、視聴者がリンクをたどって元の情報にたどり着けるようにしています。 このように、新たな情報をテキストや画像を通じて追加できると言う点と、 外部情報へのリンクを頁内のある位置・時間に紐付けられるという点も、いちいち動画を作り直す手間に比べたら格段に 楽ですので、特に授業用動画などには便利なのではないかと思います。

これだけでなく、もっと色々なことができるはずですが、とりあえずその色々なことのうちのいくつかをできるようにする ことによって、Web画像をアンロックしたように、Web動画もアンロックされないだろうか、というのが当方の期待するところです。

Web画像においてそうだったように、オープンな国際標準規格に準拠して相互運用可能な形でアノテーション データを作成すれば、それは広く長く使えることになります。他の人がさらに利活用することができますし、 他に同様の機能をもった別のビューワが出てきた時にそちらでも使うことができます。 そして、バージョンがあがったり、そもそもIIIFよりもよい規格が出てきたとしても、 次の形式に移行する際には、独自形式に比べるとかなり容易に行えます。

もちろん、画像と違って動画は権利関係が格段に厳しく、アンロックしようにもできないものが大半だとは思いますが、 アンロックできるものだけでもしてしまうことで、Webに蓄積される知識を増やす方向に向かうとよいのではないかと 思っております。

ということで、とりあえず、12/26(土)13:30~15:30、Zoomにて、このIIIF動画アノテーションの書き方の 講習会を実施することになりましたので、これを機に動画アノテーションも押さえてみよう、という人、 ご興味がおありの人は、ぜひご参加ください。参加申し込みは以下のフォームにてお願いいたします。

docs.google.com