京大OCW閉鎖の件に寄せて:これからの可能性だったものの一つ

京都大学高等教育研究開発推進センターが9月末に廃止されることに伴い、「京都大学オープンコースウェア(OCW)」が閉鎖されるというニュースに接した。実際のところ、これがその後どうなるのかはわからないが、現在知らされている範囲では、とにかくなくなってしまうようだ。

基本的に、Webコンテンツの持続可能性について、私は、「とにかく再利用可能なライセンスをつけておけば存続できる」という点を大切にしているのだが、それは必ずしもうまくいかない面がある。貴重資料の画像で、それにメタデータを付与して一緒に流通させ、ハッシュでデータの改ざん可能性を管理したりすれば、さらに、そもそもIPFSでなんとかすれば、と考えたりしつつ色々なことを試しているのだが、しかし、オープンコースウェアの場合、またちょっと話が変わってくる。オープンコースウェアは基本的になまものの教育コンテンツを志向するものであり、それ単体で価値を持つ類のものというよりは、教育コンテンツであることをどこかが保証してくれることで意味を持ってくるものであり、それゆえに、教育コンテンツとしてどこかが裏書きをしてくれることが期待されるものであり、つまり、適宜のアップデートも必要になる。

さて、今時のOCWでは動画が公開されることも多いが、動画のアップデートというのは基本的に死ぬほど時間がかかって大変なものである。しかし、これをなんとかする一つのソリューションとしてIIIF(International Image Interoperability Framework)における動画アノテーションという技術仕様がある。残念ながらYouTubeには適用できないのだが、MP4動画であれば、公開されている動画を別のサイトで再生させ、その際に画面上(+タイムライン上)に文字や画像、音声、動画をアノテーションとして付与することができるという、結構アレな技術仕様なのだ。もちろん、仕様としてアレ過ぎて、それを完璧に実装できるソフトウェアは存在しないのだが、現在、世界各地でぼちぼち開発が進められている。(詳しくはこちらの頁を見てIIIFのSlackに参加して、avチャンネルをみていただくと最新の開発状況を確認できる。IIIFは、基本的に「アノテーションの仕方(の技術仕様)」を決めるだけで、あとは世界中のみんなで仲良くそれにあわせた実装系を開発してね、という代物なので、そこで実現し得る多様な実装の一部を選び取って「ビューワ」を作成するのがIIIFデベロッパのお仕事の一つであり、世界中の、主に研究図書館やミュージアム等に所属するエンジニア達に、一部企業エンジニアも加わり、主にフリーソフトウェアを舞台にしのぎを削っている。

ということで、筆者らも、この技術仕様をなんとか使えるようにしたいという気持ちに加えて、OCWのような適宜のアップデートが必要なコンテンツの扱いにおいて可能性があるのではないか、ということも考え、結果として、IIIF動画アノテーションを実装した改良版Miradorというビューワを開発・公開した。これを用いて、2017年に筆者が京大で講演したOCW動画に対してアノテーションを付与し、2020年の状況に対応できるように追記修正したのである。ここでの追記修正は、京大サーバ上の動画はまったくいじることなく、ただ、JSONデータ(=テキストデータ)で画面上の位置と時間を指定して文字や画像をオーバーレイしただけである。そのJSONデータを「どこかのサイトに置いたMirador」に読み込ませれば、追記修正された動画を表示できるようになるのである。 このJSONデータは、ロジカルでありかつ非常に簡素であり、少し仕組みを理解できれば、人が手で書くことができるレベルのものである(私はこれを手で書いた)。(なお、このMirador改良版は、さらに改良を重ね、現在では、ELANとも互換性を持つに至っていることも追記しておきたい。)

動画画面上への画像のオーバーレイ
動画画面上への画像のオーバーレイ

このことは、いいことばかりではなく様々な問題を生じる可能性もあるものの、たとえば、IIIFアノテーションで追記修正を行うことにより、教育コンテンツ動画のアップデートの回数を減らせそうであるという点で、あるいはそもそも、動画だけではできない色々なコンテンツの追加やハイパーリンク化などを実現できるといった発展的な面でも結構面白いことになるのではないかと思ったりしたものであった。

というような見通しのもと、筆者の京大OCW動画をネタの一つとして色々育てていこうと思っていたのだが、これももしかしたらなくなってしまうのかもしれない…と思うととても残念なことである。関連サイトを拝見する限りでは関係者の方々の無念を感じるばかりで当方もつらくなっているが、京大はデジタルアーカイブや機関リポジトリにも力を入れているので、そちらの方で保存だけでもしてくれるのではないかと淡い期待をしている。いずれにしても、外からは何も見えないので、諸事、うまいところに落ち着いてくれることを祈るばかりである。