Mirador 3が正式リリース:IIIF対応ビューワが新しくなりました

IIIF対応ビューワの代表格の一つ、Miradorの新バージョンが、ついに正式リリースとなりました。バージョン2の反省を踏まえつつ、一方で、バージョン2を通じて一気に広がった開発者コミュニティのパワーを活かして、バージョン2よりも圧倒的に便利そうな雰囲気のものができあがってきました。

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開発の中心になったのはスタンフォード大学図書館の面々です。開発に着手するときは、インターフェイスの専門家に担当してもらって片っ端からインタビューを行なって可能な限りニーズに対応したものを作るべく徹底的に取り組んだようです。私にまでZoomインタビューをしてきたほどですので、その調査範囲はかなりのものだったのだろうと思います。一方で、バージョン2ではなしえなかった、音声や動画、3Dなどへの対応も、レイヤー構造にすることで拡張可能な形で対応していきたい、と、中心メンバーであるStuart Snydmanさんが強調しておられましたが、これも、正式リリース直前に、音声動画対応機能が正式に組み込まれたようで、おそらくはレイヤー構造的に色々なメディアコーデックを取り込めるようになったのだろうと思います。開発の向けての盛り上がりの様子は、Githubの状況をみていただいても想像できるだろうと思います。

元々、IIIFは、アノテーションの連鎖によってあらゆるコンテンツを表現しようとするセマンティックWebの賜物ですので、アノテーションの連鎖の先にOpenSeadragonなり、音声や動画のコーデックや3Dのレンダリングライブラリ(?)などがあれば、それらもつなぎあわせて連鎖からなる情報空間を創り出していきます。言うは易し、で、実際にそれを実現できるソフトウェアを開発するのはそう簡単ではなく、バージョン3にしてようやく、一つの形になったと言えるのだろうと思います。少し前に、IIIF Presentation API もバージョン3にアップデートされたことで、時間軸でのアノテーションも共通仕様として可能になりましたので、タイミング的にもちょうどよい感じです。

Miradorは元々、複数コンテンツの並列表示やレイヤー表示に特徴を持つビューワでしたが、それが画像以外のマルチメディアコンテンツにも対応できるようになったことで、今後、その連鎖の網の目が一気に広がるのだろうと思います。これをうまく活かせるコンテンツが世界各地から、世界中のIIIFを活用しつつ現れてくるのだろうと思うと、わくわくしてきますね。

残念ながら、筆者はまだ充実したマルチメディアコンテンツのようなものは持ち合わせていないのですが、さっそく、これまでMiradorを組み込んでいたSAT大正蔵図像DBのものを最新版にアップデートしてみました。

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ここで驚いたのは、他のシステムに組み込む方法や、複数画面をならべて表示させるためのプログラムの書き方がかなり簡単になっていたことです。これまで以上に広く活用されるであろうことが想像されます。それから、一つ感動したのは、使い方に関するこちらの質問に即応していただけたことです。マニュアルがまだそんなに整備されていないので、一生懸命ソースコードを読もうとしてみるのですが、今回、MiradorはReactをベースとして開発している一方で、筆者は最近、同種のもので周囲の人が比較的よく使っているVue.jsを勉強し始めてしまったために、そもそも何がなんだかよくわからない…(?_?)という状態になってしまっておりました。バージョン2の時は、筆者も常用していたjQueryをベースにしていたので、ソースコードを読めるどころか、修正コードを提供したりもしていたのですが、バージョン3では今のところまったく歯が立たない状況です。そこで、SlackのMiradorチャンネルに「こういう使い方をしてみたいんですが…」と問い合わせてみたところ、即、お返事をいただくどころか、FAQに追記していただきました。「ウインドウを開いた後に、外部のJavascriptから画像にズームインする」という機能だったのですが、書いていただいた事例でまさにぴったりできました。それを組み込んだことで、上記の動画のように、複数ウインドウを開いた後にそれぞれのウインドウで該当箇所にズームイン、というところまでできました。ご教示してくださったJack Reedさんには深く感謝いたしております。

ご覧いただけばわかると思いますが、Mirador3は、「ここがすごい」というところは今のところそんなにないのですが、インターフェイスが洗練されていて、プラグインを組み込む場合でもバージョン2よりもかなり統一感のある形で組み込めそうな感じです。組み込み方や各種設定方法など、こちらの頁で徐々に紹介されていくと思いますので、ぜひ注目して置いていただければと思います。自分で作れなくても「こういうのをいつか誰かに作って欲しい」ということでURLと使い方をメモしておけば、それがやがて、デジタルアーカイブのインターフェイスをリッチにして使いやすいものにしていくことに何らかの形でつながることになると思いますので、ぜひ色々試したりメモしたりしてみてください。