MLAのウチとソト

MLA、と言われて、「文系」の人が思いつくものにはおそらく2種類あります。一つは、Museum, Libraries, and Archivesの略であり、博物館・美術館・図書館・文書館等のことを 総称し、そういった文化的なことがらに関わる機関が連携して活動することを志向して使われ始めたものではないかと想像しています。もう一つは、 Modern Language Association の略語であり、Wikipediaでも紹介されていますが、 19世紀からある割と古い学会であり、どちらかと言えば比較文学的な方向性が強いと聞いたことがありますが、いずれにしても、米国の文学系学会の中ではかなり大きなものの一つのようです。 2014年に開催されたものは日本語でイベントレポートが読めます。(なんと、今や各方面で有名な北村紗衣先生が訳してくださっています。)参考文献のスタイルで「MLA形式」というのを 聞いたことがある人もいると思いますが、そのようなものを作って公表し、世界的に使われるようになってしまうような程度の力を持っている学会でもあります。とりあえず、前者をMLA (J)、後者をMLA (U) としておきましょうか。

このようにしてみてみると、重なるところもあるものの、なんとなく棲み分けできそうな気がしないでもないです。ただ、これが、デジタルが前面に出てきたことで少々ややこしいことになりつつあります。

「MLAでは、デジタル研究やデジタルメディアにおける制作物を評価するためのガイドラインを策定しています。」

さて、どちらでしょうか?MLA (J) も、今や デジタルアーカイブの世界では非常によく出てくる言葉になっており、そういうものを作っていてもおかしくないのでは、関係諸機関も頑張っているのですね、という 気持ちになりそうです。しかしながら、よく考えてみると、MLA (J)は、それ自体で ガイドラインを策定するような主体ではない(おそらく)ということで、MLA (U) であることがわかります。

ただ、MLA (J) が、そのようであることを知っている人はどれくらいいるでしょうか? と考えると、デジタルがそれほど前面に出てきてなかったころに比べると、混乱度がやや高まるのではないか という気もします。

ちなみに、MLA (U) は、2000年にそういうガイドラインを策定・公表し、改訂もしてきている ようです。2000年から、ということはつまり、Digital Humanitiesという言葉ができる以前のことであり、すなわち、2004年頃に始まる国際的なDigital Humanitiesの潮流を形成する主力を成したコミュニティの一つでもありました。 上にリンクしたイベントレポートでもその一端がうかがえると思います。日本で言うところのデジタルアーカイブの構築や利活用に文学研究の観点から本格的に取り組んで既に20年以上経っている学会、ということでもあります。 (取り組み始めたのはおそらくかなり前だと思います)

もう一ついってみましょう。

「MLAでは、文化研究のためのオープンアクセスの研究や教材を共有し、分野横断的な研究を支援するWebサイトを運営しています」 これも、上記のようなMLA (J) の状況を知っていれば、MLA (U) であることがわかりますね。MLA (U) は そのようなサイトとして、Humanities Commonsを運営しています。

さらにもう一つ。

「MLA コモンズというオンラインコミュニティサイトがあって文学研究のためのオープンな研究や教材を共有したり議論したりしてますが会員限定です」

というのを聞いて、もし私がMLA (J) の実際の状況をよく知らなければ、「どこにいけばMLA (J) の会員になれるのだろう」と一瞬思ってしまいそうです。 その後に MLA Commonsでググればすぐに事情がわかるとは思いますが。

では、MLA (U) の世界でMLA (J) のようなものがどう呼ばれて共存しているのかというと、LAMとか、GLAMなどと呼ばれるようです。順番が違っていたり、ギャラリー(G)がついていたりする ようですね。

一方、MLA (J) の世界でも、最近は、SaveMLAKにおいて公民館のK がついてMLAK(むらっく)という略称が使われるようになったり、また別の発想として、 大学と産業界を含めてMALUIという呼び方もされることがあるようです。いずれもその背景や使っている人達の想いをよく表現していて 素敵だと思います。MALUIの方は、耳で聞くとデパートの丸井との区別が少し難しいかもしれませんが、表記は異なっていますね。 文脈的にはデパートと間違えることはあまりなさそうな気がしますが・・・(どうでしょうか?)あるいはまた、Open GLAM JapanGLAMtechなど、GLAMをそのまま使うこともあるようです。

しかしながら、MLA (U) を知っている編集者がたくさんいそうな出版社でも MLA (J) をタイトルにつけた本を刊行したりしているので、 むしろ、敢えて重ねている人達もおられるのかもしれないとも思うのですが、このまま行って大丈夫かな・・・と、ちょっと気になったりも しています。とりあえず、授業でこういう話をするときは、上記のような混乱のしやすさがあるので聞く時も話す時も注意するようにと伝えるようにしていますが、 みなさん、このあたりはどういう風に意識しておられるでしょうか?