日本学術会議の提言を読んでみる:学術情報流通の現在と未来 1/n

日本学術会議が急に世間で話題になっています。だからというわけではありません。話題になる前にでたこちらの提言

学術情報流通の大変革時代に向けた学術情報環境の再構築と国際競争力強化

をみんなで読む会をやってみたい、と、提言を見たときから思っていたのですが、

なかなか時間がとれないうちに日本学術会議が急に注目を集めるようになり、しかも10/1から自分も連携会員になってしまいました。 ただし、第一部会なので、第三部会が出したこの提言は、部会も違う上に関係者になる前に作られたということで、 利害関係者ではないということで、この提言を私の主観から読ませていただきたいと思います。

なお、筆者は学術情報流通については専門ではありませんが実践者として少し関わっており、また、出身が人文学系であり、 人文学も学術情報流通の話と無縁ではないので、人文学の視点も加味しながら読んでみる、という風にしてみたいと思います。

それから、一度に全部読むには長すぎるので、少しずつ読んでいきたいと思います。今回のブログ記事は「あれっ?」というところで 終わってしまいますが、ご容赦ください。

それでは、以下、読みながら気がついた点についてメモしていきたいと思います。

執筆に関わった方々

最初の2頁ほどに、執筆に関わった方々のお名前がリストされています。14名から成る分科会が作られており、9名の 会員と5名の連携会員が属しておられたようです。この提言の場合、この14名以外に21名もの協力者がリストされている ことが目を引きます。研究者のみならず、図書館員や学術情報に関わる企業からも参加があるところも興味深いところです。 学術情報流通がどのような人々によって支えられているか、そして、この提言がいかに幅広く目を配って作成されたか、 ということがあらわれているのでしょう。

要旨

要旨に挙げられている項目をみれば、大体内容はわかりそうな気がしますが、個別の情報を知らないと よくわからなかったり実際には役に立たなかったりするので、要旨はざっと見るだけにして本文にいきましょう。

1提言作成の背景:我が国の学術情報発信力の向上に向けて

まずは理学工学系の話に限定しつつ、日本の研究の国際競争力が落ちてきているところから話が始まりますね。 論文数が減っていることを「学術情報発信力の衰退」という表現にすることで、今回のタイトルとつながってくるようです。 学術情報(+データ)の流通と適切な管理・活用の重要性が熱く語られています。 「学術の基盤環境である学術情報流通のネットワークを通じた高度な学術情報のコミュニケーション」 ということで学術情報流通が、学術情報のコミュニケーション、という位置づけにされています。ただ、 学術情報流通という言葉はScholarly communicationの和訳らしくて、元々コミュニケーションを 含意する用語だったようにも思われます。昨年ノースカロライナ州で開催された2019 Scholarly Communications Institute | trianglesci.orgという イベントに参加した際には、Equity in Scholarly Communications.テーマの元で公募を通った5つくらいのグループが それぞれ持ち寄ったテーマで議論をしていました。(世界中から集まった40人くらいの参加者全員 にA. Mellon財団が旅費滞在費を出していたのはちょっとびっくりしました)。私が参加したグループは 要するにTEIガイドラインの国際化という話で、どちらかと言えばデータの話でしたが、他のグループは 学術情報をめぐる人のコミュニケーションが主なテーマになっているようでした。学術情報流通は門外漢なので あまりよくわからないのですが、Scholarly communication に学術情報流通という訳語を与えたことで議論の幅が結構変わったのかもしれないと思ったところでした。

また、学術情報環境(学術情報インフラ)の整備が必要であるにも関わらず経費高騰により 最低限必要なものさえ失われそうになっている、としていますが、これは人文学系でもまさに 同様で、わかりやすい例で言えば、大学図書館の人員と経費が削減されつつあるところがそれにあたるでしょう。 そして、「これまでの学術情報インフラの維持や管理については、理学工学系の科学者のほとんど が無関心であり、」としていますが、これは人文学系でも似たり寄ったりな面があると思います。 とはいえ、限られた人生の中の、しかも 年を取るほどに減っていく、研究のために費やせる時間の中で、自分の研究対象に向き合う 以外のことに時間を費やすのは、なかなか難しいことでもあります。ある種の役割分担のようなものも 必要なのかもしれません。ただ、近年は、競争的研究資金の審査や大学研究機関の認証評価など、 競争環境を作り出すために専門家が割かなければならない時間がどんどん増えてきてしまっている ようにも思えますので、その点についても何らかの効率化を図る必要があるのかもしれないとも 思っています。 いずれにせよ、本提言では、そこを巻き返して、いわば学術情報のエコシステム全体を再構築すべきときに来ている、ということが述べられているようです。

一方、いわゆるガラパゴス化により、国内学協会の存在意義や持続可能性が問題になりつつあるとの見解も示されています。 私見では、この点は、特に日本語読者を意識する場合、ガラパゴス化をさけられない状況があり、むしろそれによる メリットをきちんと成果として評価されるような枠組みを用意していく必要があろうかと思っています。そして、 そのためには、話者人口規模の近い非英語圏先進国と手をとりあっていくことができるとよいのではないかとも思っています。 思っているだけで、実際に何ができているのかと言われるとなかなか難しいところではありますが…。周囲をみてみると、 J-Stageでは日本語論文誌も無料で公開してDOIも付与してくれるようになっており、さらに論文索引(サイテーションインデックス)も 搭載しているため、論文を掲載する学会側がきちんと論文索引を作成すれば、指標化はできるようになっているはずです。(実際には 論文索引があまりきちんとできていなくて集計もうまくできないということがあるようですが…)。あるいは、 筑波大学で試みている新たな評価指標もあります。一方、フランスでは、 人文社会科学向けのオープンアクセスプラットフォーム Open Edition が提供されているようです。 こういった取り組みについてはもっとよくご存じの人がいると思いますので、ご教示をいただけるとありがたいところです。

結果として、「過去 20 年間に起こった世界的な電子ジャーナル化の波に我が国は対応できずに周回遅れになった」 とのことですが、一方、それを「挽回する「最後の好機」でもある。」とのことです。関連する全ての構成員が 協働すべし、とのことですので、私も機会があれば、と思います。

本章の最後では、これまでに出されてきた学術情報流通に関連する提言を振り返ります。数年おきに、5件の 提言がでていたようです。以下にリンク付きでリストしてみましょう。

筆者もこれらはその都度拝読して、その都度感心して期待しておりましたが、実現した事柄はごくわずかだったそうです。 なお、ここでは紙数の関係で挙げなかったのかもしれませんが、学術情報・データの流通に関しては個別分野からも色々な 提言が出ていて、たとえば以下のようなものが見つかります。

(日付やリンクが間違っていたらご指摘ください!)

タイトルから推測して目次をみたくらいですので、まだかなり漏れがあるかもしれませんが、学術情報やデータの整備・拡充に言及している提言をざっと 探しただけでこれくらいあります。デジタル社会で学術をいかに展開していくかという話は多くの(おそらくはほとんどすべての)分野で重要になっている ようです。自分に関係のある分野の提言はぜひ押さえておきたいところですね。 なお、「科学的エビデンスを主体としたスポーツの在り方」には、柔道の山口香氏や日本サッカー協会会長の田嶋幸三氏も名前を連ねてらっしゃって、 なかなか興味深いところです。

さて、今回の提言に戻ると、今回は、これまでの提言を踏まえて、以下の4点について議論するとのことで、 「その多くは日本の学術全体に共通する課題に対しても有効であると認識している。」としてこの章が締めくくられますが、 まったく同感です。

  1. ジャーナル購読・学術情報の流通・受信
  2. ジャーナル発行・学術情報の発信
  3. 理学工学系におけるオープンデータ/オープンサイエンスの課題
  4. 我が国の学協会の学術情報機能の強化

始まったばかりですが、今日はこの辺でひとまず終わりにします。また機会をみつけて続きを読んでいきたいと思います。