IIIF対応で画像を公開することの意義を改めて:各図書館等の事例より

前回の記事に引き続き、もう少し具体的に、各地の図書館等のIIIF画像とSAT2018との連携の状況についてのご紹介を通じて、IIIF対応で画像を公開することの意義を改めてみていきたいと思います。

 

1.京都大学東京大学の例

たとえば、以下の画像群は、左からみていくと、東京大学総合図書館、SAT研究会、京都大学図書館から公開されている画像です。東京大学総合図書館とSAT研究会の画像は仏教学のプロジェクトとしてデジタル化・公開されているので、このように使われているのはある意味これまでの流れの続きと言えると思います。

 一方、ここでまず注目しておきたいのは、京都大学図書館の画像です。京都大学図書館に関しては、おそらく、仏教学のプロジェクトの一環として公開したわけではなくて、自らのコレクションを学術利用全般のために公開するという文脈で公開したのだと想像しております。しかし、IIIF対応で公開したことによって、公開した側としてはそれ以上の手間暇はとくにかけなくとも、このようにして専門家コミュニティが利用するサイトにかなり便利な形で組み込まれて、教育・研究に活用される環境が作られていくことになります。

 

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ちなみに、このビューを得るには、以下のURLにアクセスして、巻17のところにあるIIIFアイコンを二つクリックして、ついでに大正新脩大藏経の巻17の始めの行のIIIFアイコンもクリックすると、大体完了です。

http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT2018/T1563_.29.0854b08.html

全画面表示する前は以下のような感じになりますが、全画面表示すると、上のように、大きく表示されて、読みやすくなります。

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2.ハーバード大学京都大学東京大学の例

あるいは、同様に、以下の例では、大慧普覺禪師語録巻二十五のうち、ハーバード大学京都大学東京大学、SAT研究会から公開されているものを並べてみています。

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これは、以下のURLから、一つ前の例と同様に、巻二十五のところにあるIIIFアイコンをクリックしていただくと表示できるようになっています。

http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT2018/T1998A.47.0916b11.html

 

3.九州大学・フランス国立図書館の例

以下の例は、金光明最勝王経という経典の第三巻の画像です。九州大学図書館では、この経典のかなりきれいな全巻揃いの写本を公開している一方で、フランス国立図書館で公開している敦煌写本画像のなかに同じ箇所のものがあったので、これも並べられるようにIIIFアイコンを用意しております。以下のURLから、上述のような仕方で閲覧できます。

http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT2018/T0665_.16.0413c10.html

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4.島根大学東京大学の例

島根大学図書館でも最近IIIF対応での画像公開が始まりましたが、そこに少し仏典画像が含まれていました。そこの『大智度論』の写本も、このようにして既存の他の画像と並べることができるのですが、この場合、右の二つの例とは区切り方が異なっており、大正新脩大藏経の脚注によれば、石山寺に写本で伝えられるものと一致していることから、そちらの系統の写本であることが想像されます。こちらは、頁を開いたあと、このビューにたどり着くのに少々手間がかかるので、URLは省略します。そういうパターンでもうまくアクセスできるようにすることを、次の開発目標にしています。

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5.バイエルン州立図書館・東京大学の例

バイエルン州立図書館は、IIIFに初期段階から熱心に関わっている機関の一つですが、そこでも、最近、東アジア資料のIIIF画像公開を始めたようです。日本の資料も色々ありますので、それはそれでどなたか何とかしてくださるとありがたいと思っておりますが、仏典関連資料も色々ありましたので、それもリンクしてみております。

http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT2018/T0262_.09.0027b13.html

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6. バチカン図書館の例

バチカン図書館では、NTTデータが技術面を担当しつつ、膨大なコレクションをIIIF対応で公開しつつありますが、そのなかに一つ、金泥写経があります。さすがにNTTデータが担当しているだけあってか、頁めくり方向を右⇒左にきちんと対応させていました。IIIFのルールとしてはきちんと用意されているのですが、ハーバードやフランス国立図書館等、欧米の機関だとなかなか対応できていないなかで、ありがたいことです。

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7.国文学研究資料館九州大学の例

国文学研究資料館は、現在、日本で最も多くのIIIF対応画像を公開している機関です。ここは、日本の古典籍を多く収集しているため、仏典関連でも、日本で広く読まれたものが多く公開されているのかもしれません。ここでは「仏説善悪因果経」が複数公開されていましたので、並べて見ています。読み下しにしてくずし字にしたものが一つ公開されていましたが、それと同じ版とおぼしきものは九州大学からも公開されていますので、それもならべてみています。それ以外にも、いくつか、国文学研究資料館から公開されていましたので、とりあえず見つけたものをリストしてみています。

http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT2018/T2881.html

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8.終わりに

 IIIFを通じて世界の文化機関が目指したのは、このようにして自らのコレクションを公開した際に、利用者が各自の文脈に応じてそれらを再編成し、効率的効果的に活用できるようにする環境を提供する、ということでした。ここまでみてきたように、ほとんどの機関は、仏教学のプロジェクトとして仏典画像を公開したのではなく、自らのコレクションを公開した中に、たまたま仏教学に役立つ資料画像が含まれていた、ということであるように思えます。それが、IIIF対応で公開されていることによって、このように、第三者が資料を集めて、特定の利用者コミュニティの利用方法に特化する形でサービス提供できるようになりました。この事例では、SAT2018から連携したことによって、各公開機関の方で電子テクストを用意していなくとも、SAT2018で全文検索した結果から画像にたどりつくルートが用意されたという形になっています。

 さらに、ここでは、単にSAT2018という単独のデジタルアーカイブで活用できるようにするだけでなく、以下のサイトにおいて、共同でIIIF対応画像を収集し、共同で目録情報を付与し、Web APIで利用できるようにもしています。

http://bauddha.dhii.jp/SAT/iiifmani/show.php

このIIIF Manifests for Buddhist Stufiesというサイトを介することで、同様のサービスを他のデジタルアーカイブにも追加することができるのです。たとえば、文学研究や歴史研究、あるいは漢字研究のためのサイトに特定のいくつかの仏典の画像が有用であるならば、その仏典に関するIIIF画像だけを、以下のようなURLで動的に入手することができます。(以下の例では、妙法蓮華経の巻第六の画像のIIIF Manifest URIのリストをApache Solrの検索結果の形で入手できます。)

http://bauddha.dhii.jp/SAT/iiifmani/show.php?m=getByCatNum&cnum=T0262&scrnm=s6

動的に、というのは、たとえば、上記のサイトに同じ経典の同じ巻の情報を誰かが追加したら、それを利用者はリアルタイムに入手・利用できるようになる、ということです。

 このように、単に、世界中のデジタルコンテンツに横串を指して利用者に便利なサービスを様々に提供できるようになるだけでなく、様々な便利なサービスを生み出すためのサービスを作りだしてそのような動きを促進することもできる、というのがIIIFが持つ大きな可能性であり、面白さでもあると思います。

 デジタル画像を公開するにあたり、少しでもうまく・幅広く活用されることを目指すなら、このようにして活用可能性を大幅に広げる機能を持ち、すでに世界的にも広く活用されるようになっているIIIFに対応しておくことは、目的達成のためのとても有力な選択肢であるように思われます。ここまで読まれた方で、まだ対応しておられない機関の方は、ぜひ、これを機に採用をご検討いただければと思っております。なお、すでに国内でもIIIFに対応できる企業は知る限りでも4社以上ありますので、外部発注をするにしてもそれほど問題なく導入できることと思いますし、内製が可能な組織であれば、容易に導入できるフリーソフトが様々に用意されていますので、ぜひ挑戦してみてください。

 さらに、画像だけでなく、音声・動画や3D等についても、徐々にIIIF対応が広がりつつあります。まだ事例はそれほど多くないですが、少なくとも画像と同様のことができるようになっていく見通しですので、そのようなコンテンツに関しても、採用に向けて検討してみていただくとよいかもしれません。