※IIIFの情報を求めてこちらに来られた方は、「IIIF日本語情報私的まとめ」もご覧ください
現在、デジタルアーカイブにおいて画像を公開し共有するための国際的な枠組みが作られ、採用が広まりつつあります。International Image Interoperability Framework、略してIIIF(トリプルアイエフ)というもので、英国図書館、フランス国立図書館、オックスフォード大学ボドリアン図書館、スタンフォード大学、プリンストン大学、イェール大学など、錚々たる機関が始めた規格で、国立国会図書館のカレントアウェアネスポータルでも何度か簡単に紹介されているようです。
これまで、デジタルアーカイブに関する大きな難点の一つであった、「各地のデジタルアーカイブで個別に公開されて、いちいちそれぞれのサイトの使い方を覚えなければならず、使い勝手も善し悪しが大きく異なる」という状況が、IIIFの登場と普及によって、ようやく、そして一気に解決しようとしています。
つまり、画像データやそれに対する注釈情報等のコンピュータ間でのやりとりの仕方を各機関の間で一元化することによって、利用者が色々な使い方を自由に選べるようにする、という状況がもたらされようとしているのです。
このブログでは、何度か、その仕組みの裏側についてご紹介してきましたが、今回は、普通の利用者にとってIIIFがどういう風に作用することになるのか、ということに焦点をあててご紹介していきたいと思います。(一応、技術的な事柄が中心になりますが、技術的な事柄がよくわからないという人も、いきなりこのページを閉じないで、とりあえず、下記の紹介画像だけでも見ていっていただいて、雰囲気だけでも感じていただけたらと思います。)
ここまで何度か、IIIF Image APIについて採り上げつつ、IIPImage Serverのインストールについてのご紹介などをしてきました。(詳しくは過去記事をご参照ください)IIIF対応画像サーバのインストールは必須なので押さえておかねばならないのですが、ここでは、これを踏まえた上でのIIIF Presentation APIのご紹介、ということになります。
基本的には、
・世界中のどこのデジタルアーカイブの画像ファイルでも、その情報を自分のビューワに読み込ませるとそれを表示してくれる。
ということに尽きます。しかし、これは決して当たり前のことではなくて、私も長年夢見てきたことに向けた大変大きな一歩が踏み出されたというところがすごいところなのです。もう少し言い方を変えてみると、
・IIIF Presentation APIに沿った形式のJSONファイルで画像ファイルの情報をサーバに置いておくとどこのどのビューワでも自由に表示できるし画像上に注釈を付けたりすることもできる。
という風になります。
さらにこれを利用者目線に寄って見みてみると、
IIIF 準拠で画像公開されていれば:
- いくつかの選択肢の中から好きなビューワを選んで使える
- どこのサーバで公開されていても一つのビューワの中で一元的に扱える
というような感じになります。
さて、ビューワですが、今回は MiradorとUniversal Viewerを試してみました。いずれもフリーソフトですが、かたやスタンフォード大学やハーバード大学、UCLA、など、かたや英国図書館やウェルカムライブラリなど、いずれも大手の関係機関が関わっているもののようです。他にもいくつかよさそうなフリーソフトがありますが、とりあえず今回はこの二つに圧倒されてみましょう。
IIIF Presentation APIでは、何度も書いていますが、一定の書式に従ってJSONファイルを作成することが前提です。これを読み込むことで、サーバがどこにあっても、手元のビューワに画像を読み出せるようになっています。JSONファイルは、たとえば、下記のような感じです。
http://oculus-dev.harvardx.harvard.edu/manifests/via:olvwork576793
http://dms-data.stanford.edu/data/manifests/BnF/jr903ng8662/manifest.json
http://www2.dhii.jp/nijl/NIJL0003/049-0197/manifest.json
これだけ見ると難しそうでわけがわからん、という人もおられると思いますが、基本的には機械的に生成できますので、いちいち手で書く必要はありません。今回、国文研データセットに関してはちょっとプログラムを作って350ファイルを自動生成しました(まだ記述が完全ではありませんが、書式は正しく、動作もきちんとします)。なお、エラーチェックに関しては、簡単なバリデータがありますので、これで確認しながら進めるとよいかと思われます。(バリデートされたからといって必ず動作するとは限らないので要注意ですが)
とりあえず、これをいつもの国文研オープンデータセット簡易Web閲覧のページから個々にダウンロードできるようにしておきました。「IIIF manifest」というリンクをクリックするとJSONファイルが開きますが、これを開いても仕方がないので、URLをコピーして、IIIF対応ビューワに読み込ませるなどとして、適宜ご利用ください。(IIIF manifestファイルをここで入手できる、ということを覚えておいてください。)
それから、このページにはというアイコンが登場していますが、これはIIIF対応ビューワにドラッグ&ドロップするとその画像セットを閲覧できるようになる、というアイコンです。そして、このアイコンの隣に「UV」というリンクがありますので(上記画像には出ていませんので当該ウェブページにて直接ご確認ください)それをクリックするといきなりUniversal Viewerでファイルを開くことができます。たとえば以下のような感じです。
このビューワは、今の段階ではまだ普通のビューワです。とりあえずあちこちクリックしたりしてみて機能を確認してみていただけますとよいかと思います。
特にこのビューワで面白いのは、「今見ている領域をそのままURLにして共有できる機能」です。
画像閲覧中に左下のアイコンをクリックすると上記のような表示になりますので、サイズを選んだりしつつ、表示されているURLのみ、あるいはHTMLタグごとコピーして適宜利用して、表示中の領域を再現できるようになっています。この機能は、我らがe国宝でかなり以前から提供されてきているので既視感がありますが、このようにして簡単にどこでも実装できるようになると、これはこれで今後の展開が楽しみなところです。
それから、先ほどご紹介したIIIF ManifestファイルのURLを読み込ませて表示させる、という機能をUniversal viewerは持っています。画像表示画面の下の方にURLを書き込む場所がありますので、そこにIIIF ManifestファイルのURLをコピペするなどして「Set」をクリックすればOKです。ちょっと時間がかかることや、公開元によってはサムネイル画像がうまく表示されないことなどがあるようですが、国文研データセットのIIIF Manifestファイルでは、確認した限りでは、普通に表示されるようです。
ここまで見ていただけば、「各地で公開されている画像を一元的に扱える」というのは大体ご理解いただけたかと思いますが、これだけではちょっとインパクトに欠けると思います。そこで次にご紹介したいのがMiradorです。
まず、下記の2件の表示を見てください。これです。これが、IIIF対応している画像であればどれでもできるのです。しかも、フリーソフトで。
さて、では、Miradorについて見ていきましょう。まずはデフォルトのページをご覧ください。ここで大きな十字が表示されると思います。この十字をクリックしてください。そうしますと、下記のように、登録されている各資料がずらっと表示されるはずです。
ここでいずれかの資料や画像をクリックすると、ビューワに表示されます。
それから、ここには表示されていないけど使いたい画像があってIIIF ManifestファイルのURLを知っているという場合は右上の空欄にそのURLを書き込んで「Load」をクリックするとこの一覧にその資料が追加されます。
ビューワに表示されると下図のようになりますが、これは普通の拡大縮小可能なビューワですので(内部的にはOpenSeadragonのようです)、特に変わったところはありません。
このビューワ画面の右上に注目していただきますと「レイアウト変更」というリンクがあります。これをクリックしますと下記のような画面になって、1つのページ内に表示できる画像数を設定できるようになります。
とりあえず、1×2を選択すると下記のようになります。これで、先ほどと同様に「アイテム追加」をしていただくと、他の資料を選択できるようになりますので、適当に選択してみてください。そうすると、2つの図を並べて表示できるようになります。
最初から複数の画像を並べて表示させることもできます。寛政武鑑だけを最初から並べて表示できるようにしてみたのがこちらのURLです。下記のようになるはずです。
さらに追加していくと、下図のように6つの寛政武鑑を並べたりすることもできますのでお試ししてみてください。
ちなみに、ちょっと動作が遅い…と思われた方もいらっしゃるでしょう。それは、国文研データセットのIIIF画像配信サーバソフトがあまり速くないものであることと、そのハードウェアももう5歳になってしまっているためかと思います。機会があれば、もう少し速いものに置き換えたいと思っております。
それから、この仕組みでは、Open Annotationを採り入れており、Media Fragments URIに準拠した形でアノテーションもできます。たとえばこんな感じです。これは、manifestのjsonファイルとは別のファイルとして作成する必要があり、manifestファイルから参照する形になります。annotationファイルの例はこちらです。なお、annotationファイルは「list」というディレクトリに入っていなければならないようで、Presentation APIの仕様書にはきちんと書いてありますが、よく読んで取り組んでください。
というわけで、この数日の苦労を惜しげもなく開陳してしまったわけですが、あまりに圧倒されたので、とりあえず日本の皆様にもこれをよく知っていただきたい、というか、フリーソフトを組み合わせるだけでちょっと時間をかければどこでも使えるようになる、そして、ここまでのことができるようになっている、ということをお知らせしなければと思ったのです。
このような枠組みに、世界中の多くのデジタルアーカイブ公開機関が賛同し、協働で新しい世界を構築しようとしているようです。参加機関のリストを見るだけでもかなり圧倒されますが、ここにリストされていない大型機関でもIIIF対応を進めているところがあるようで、少なくとも2箇所、知っております。そのようなことで、日本の関係機関の皆様におかれましても、この枠組みにうまく乗っていただけたらなあと、そして、システムを開発・提供する企業の皆様におかれても、うまく対応していただけたらなあと思うところです。
それから、本件については、特に @2SC1815J さんにいくつか重要なご教示をいただきまして、それがなければこんなに早くできることはなかっただろうと思います。感謝すること至極です。
最後に、この件について色々検討したりされる方々の資料作成が少しでも容易になるように、例示したURLやその他役立ちそうなURLを掲載しておきます。
規格関連
周辺情報
IIIFコミュニティに参加しているデジタルアーカイブ公開機関のリスト
ハウツー
IIPImage Serverのインストールについてのご紹介
IIIFの事例
Miradorで国文研データセット「日本文学」を表示する事例
Miradorで国文研データセット「芸術・諸芸等」を表示する事例
実際のJSONファイルと作成支援ツール
ハーバード大学で公開しているIIIF ManifestのJSONファイル
スタンフォード大学で公開しているIIIF ManifestのJSONファイル
国文研データセット用のIIIF ManifestのJSONファイル
IIIF Presentation API用に今回作ったアノテーションのJSONファイル
IIIF Presentation APIのための簡単なバリデータ