ようやく刊行にこぎつけました:『日本の文化をデジタル世界に伝える』

『日本の文化をデジタル世界に伝える』というやや大仰なタイトルの本を刊行することになりました。

www.jusonbo.co.jp

京都大学人文科学研究所で共同研究班をやらせていただいた時の成果物の刊行という位置づけのものですが、終了後、かなり時間が経ってからの刊行となりました。共同研究班が終了する頃にIIIFが流行り始めたりTEIの日本語圏への導入が本格化したりましたので、その後の状況もかなり追記しております。共同研究班で議論してきたことをまとめたものではありますが、執筆は一人で行いましたので、基本的に私の主観がかなり入っており、議論そのものを忠実に反映したとは言えない面があります。また、わかりやすさの優先や私の理解不足から、記述に甘いところや間違いなども含まれていると思いますが、それらについてはすべて私の責任ですのでご容赦ください。

本書の目次は以下のようになっています。

第1章 「デジタル世界に伝える」とは

第2章 デジタル世界への入り口

第3章 利便性を高めるには?

第4章 デジタル世界に移行した後,なるべく長持ちさせるには

第5章 可用性を高めるための国際的な決まり事:IIIFとTEI

第6章 実際の公開にあたって

第7章 評価の問題

第8章 研究者の取り組みへの評価の問題

いわゆる文化資料に関わるデジタルアーカイブの構築についての技術論です。といっても、数式やプログラミングの話はほとんどでてきません。基本的に、「技術をどう使うべきか。どう使った方がいいか」という話に徹しています。というのは、現在の日本のデジタルアーカイブの議論では、技術論をもう少しきちんと踏まえた方がよいと考えているのですが、議論のためのたたき台のようなものがあまり十分でないように感じておりまして、そのたたき台を提供することを一つの目標としたのでした。

本書の編集主体である共同研究班のメンバーの方々は、私も含めて、研究開発や実運用の経験をベースにそういう議論をずっとしてきたコミュニティに色々な形でつながっていて、議論の蓄積もかなりあり、それらは主に、情報処理学会・人文科学とコンピュータ研究会の研究報告・シンポジウム論文集や、「東洋学へのコンピュータ利用セミナー」の発表論文集などに散在しています。しかしながら、その蓄積は、30年以上にわたって書かれてきた1000件以上の玉石混交の論文・研究報告から成っているものであり、たとえばデジタルアーカイブに関わる方々が皆、有用な情報を求めてそれらを読み始めなければならないという状況はあまりにも無茶なことです。本書は、そのような背景から、文化資料デジタル化に関する今後のデジタルアーカイブ構築の議論において有用と思われる要素をピックアップして紹介してみております。言い方を換えると、これまであちこちで色々な相談をいただくなかで、よく聞かれるポイントをなるべく押さえています。(ですので、このブログに書いてあるような事柄もかなり含まれています。特にこのブログをよく読んでいる人には既知のことが多いと思いますが、まとまった話として読めるという点では有用かと思います。)

 なお、構築、というのは、応用に関することはまた別途執筆する予定がありますので、ここでは構築に限っているということであり、したがいまして、いくつかの先進的な応用事例の話は出てきません。また、「デジタルアーカイブ」という言葉をタイトル等に出さなかったのは、デジタルアーカイブの重要な要素であるコミュニティアーカイブや重文国宝級資料のデジタルレプリカアーカイブ等の話にほとんど触れていないためです。ただ、話としては通じることも色々あると思いますので、そういったことに取り組んでおられる方々にも目にしていただけるとありがたいと思っております。